大学二年生の七月から、翌年の一月にかけて、多崎つくるは
死ぬことだけを考えて生きていた。(本文より)
物語の冒頭部分を抜粋してみました。
なぜ彼がここまで追い詰められてしまったのかというと、高校時代に最も仲が良かった友人達に、何の前触れもなく突然わけがわからないまま拒絶されてしまったからです。
- 多崎つくる
- 赤松慶(アカ)
- 青海悦夫(アオ)
- 白根柚木(シロ)
- 黒埜恵理(クロ)
男3人、女2人の仲良しグループ。
信頼と固い絆で結ばれた、完璧な五角形。それは生涯崩れることなくずっと続いていく・・・はずでした。1人だけ名前に“色彩を持たない”つくるは、そのことに微妙な疎外感を感じつつ、それでもそう信じてきたのに・・・。その調和のとれた完璧のはずのバランスは思いのほか脆く、ある日突然あっけなく崩され、失意の日々を送るのです。
とはいえ、そんなつくる君の女性関係は結構派手でちゃっかりヨロシクやっています。(;^_^A
そんな交際相手からの助言もあり、一方的な絶縁から16年の歳月を経てかつての仲間達を訪ねる、巡礼の旅が始まります。なぜ自分が疎外されてしまったのか、その真相を知るために・・・。
村上春樹氏といえば、言わずと知れた大ベストセラー作家。
心理描写、背景、行動、会話、とにかくひとつひとつが詩的で緻密であり、丁寧に丁寧に描写されています。おそらくそれはとても根気のいることで、かなりの労を費やしたのではと感じました。そう、これぞ村上ワールド。
そして、これぞ村上春樹氏の真骨頂といいますか、特に心理的な部分では心の奥底を根こそぎ炙り出すぐらいの勢いで描写されています。瞑想するみたいに、そこにずどんとハマる人にはたまらないんだろうなぁと思います。
ただ、知的すぎる登場人物たちの現実味のないキザな会話とか人によっては、数行でさらっと済ませるようなところを詩的な描写と共に奥深くまでぐっと掘り下げていく・・・村上作品が苦手という人はそういうところが、ちょっと合わないのかもしれないですね。
とはいえ、多彩な表現を操る言葉をよほど知っていなければこういった作品は決して書けないと思います。
個人的には、例えばセリフひとつとっても、会話というよりもあえて文章として捉えていたので、キザな部分もそこまで気にならなかったです。意図的にそうすることによって、登場人物の言わんとしていることの意味がより克明に見えてくるような気がして。
「こんな奴いねーよ」と撥ねつけるのは簡単ですが、そこでシャットダウンしてしまっては、もったいないと思ったのです。
例えば、ちょっとネタバレになりますが・・・。
アカこと赤松は、ビジネスセミナーの代表として成功しているのですが彼の手法やビジネス論は、今の世相を反映していてとても面白いと思いました。
いつまでも同じではいられない・・・。
別れの季節を目前にして、そんな切なさを感じている人は大勢いるんだろうなぁ。状況は違えど、つくると同じような想いをした人も・・・。
自分にも、卒業を機に年賀状のやりとりだけになってしまった学生時代の友人が何人かいます。またいつか会えるといいんだけどな。