ぬばたまの黒髪変はり白髪(しらけ)ても痛き恋には逢ふ時ありけり 沙弥満誓
黒髪に変わって白髪の生えるそんな歳になっても、痛みを伴うような切ない恋に出会ってしまうものなのですね

 

沙弥満誓は、大伴旅人や山上憶良らとともに筑紫歌壇に名を連ねる代表的なメンバー。吉蘇路(木曽路)の開削者であり、按察使としてわが地元の三河をはじめ、尾張や信濃を管轄した人物でもあります。すでに還暦を過ぎた旅人が大宰府に赴任したのは神亀5年(728年)、天平2年(730年)には大納言の命により帰京することになるのですが、掲出歌は帰京した旅人へ詠まれたもの。

 

満誓の俗名は「笠 麻呂」といい、病気である元明上皇の平癒のために出家をしたことで「満誓」となりました。つまり「黒髪変はり白髪(しらけ)ても」なんていってる満誓は僧侶の身であり、剃髪してのスキンヘッドだったりします。

 

一見恋歌のようですがそうではなく、万葉時代にはこのように恋情に擬えるということがしばしばあったようです。とはいえ恋でなくとも、満誓にとって二年余りの旅人との交流は“濃い”ものであったというのは間違いないようですね。

 

 

こちらの歌も帰京した旅人へ詠まれたもの。

まそかがみ見飽かぬ君に後れてやあした夕べにびつつ居らむ 沙弥満誓
鏡のように清く見飽きることのないあなたに置いて行かれることが、朝も夜もこんなにも寂しいものなのですね。