少々遅れてしまいましたが、半年たったんかを読ませていただいた感想を書いてみました。歌人それぞれの中から一首だけ選んでそれについて書いています。まずは「睦月篇」です。如月、卯月・・・と書いていくつもりですが、マイペースなので遅くなっちゃうかも。(^^;)

 

ボヤボヤしている間にまた半年が経ってしまいそうで怖いんだけど、今のところは一応全員分をやるつもりです。

 

睦月篇

髪染めてピアスを開けてメイクして武装少女は学校へ行く 神城寧々

自分を生きるための武装なのか、周りと併合し自分を無くすための武装なのか・・・。気になるところです。

 

「平成を生き延びました」と報告す 令和を生きることのない君へ ひろり

大々的にではなくとも、心の中でそっと・・・令和を生きることのない誰かに想いを馳せながらこのような報告した人はきっと大勢いると思います。「令和を生きることのない君」の人物像は明かされれていませんが、それ故に作者との関係性やそこにあるバックグラウンドを無限に連想することができます。

 

人生が仮想現実だとしてもやっぱり君を愛しただろう 宮坂変哲

「世にも奇妙な物語」の中で、当たり前に現実だと信じて疑わなかった世界が、目に映る視界も全部コントロールされた仮想現実だったというストーリーがあったのを思い出しました。もしかしたら自分の身にも起きていることかもしれないことだとして、愛すべき人がプログラミングされていた架空の人物だったとしてもやっぱり愛してしまうのでしょう。同じように。

 

この傘をたためばきみの守りかたもしらないただのわたしが残る 梅丘つばめ

“きみ”はそんな風に“わたし”が心を痛めていることすらも気づかずにいるのかもしれないけど、そうやって心を痛めてくれる存在がいることが“きみ”にとっての幸せだと思うのです。

 

河津桜散りて無人の名所なり菜の花はただの菜の花として 尾崎飛鳥

あんなに人で賑わっていたのにね。菜の花はそんなこと関係なしにただの菜の花としてそこに咲いており、なんてことないその光景の前に足を止めることもなく人々は通り過ぎていきます。花めぐりをあちこちしていると、無人の名所を通りがかる度にちょっと複雑な気分になります。

 

自我なんて起動しません制服を着れば身分で武装されます 縞田径

むしろ学生という身分で武装されるから、躊躇なく自我を起動させられるのでは?というのが私の感覚。なので、あえて自我を起動させないその意義が正直よくわかりませんでした。よくよく考えて「未成年の学生だから」という諦めの大義名分を「武装」と称しているのかも。

 

食うためにすずらんを買う。店員がまた来てと言うので生ける。長谷川伝

猛毒で知られるすずらんを食うために買うということは、死を選ぼうとしていたということ。それを「また来て」の一言で思いとどまった・・・。思いとどまってくれて良かったと思うと同時に、私もそんな言葉を届けられるようになりたいと思いました。

 

死にたい日も空は青いし腹は減るし君は僕を友達と呼ぶ 紅

死にたいと思っても、空は清々しいほどに青くて体は勝手に生きようとするし・・・だからもう少しだけ生きてみようかとも思える。相変わらず君にとっての僕は「友達」のままだけど・・・。・・・うんうん、それが生きているということだよね。

 

薬指 手錠みたいでダメだった ダイヤモンドで刻むトレモロ おセンチメートル

トレモロを何よりも硬いダイヤモンドで刻むというのがミソですよね。トレモロを刻むのは何だろう?単なる楽器というわけではなさそう。心なら痛いね。

 

プロントの喫煙ルームで肘つけば今朝の精液ゆるりと下りる 赤片亜美

気だるく煙草をくゆらせながら何を思っているのだろう。男なんてどうせこんなものよという「諦め」が一番近いのかなと勝手な妄想。

 

ふぞろいの斜めの文字は罫線がないのがわるいわたしじゃなくて 紅茶

自由とは律してくれるものがないということだから、コントロールできないとたちどころに乱れてしまいますね。それは弱さだとわかったうえで、罫線がないのがわるいと正当化したくなる気持ち、わかる気がします。

 

返信が返ってこない欠陥品なんだスマホじゃなくて私が 海月莉緒

そうやって自分を追いつめて気に病むほど、相手のほうは平然となんとも思っていなかったりするんですよね。一方的に連絡が途絶えるのって、私もやられたことあるけど精神的にかなりキツいから、決別するにしてもせめて相手にきちんと告げてあげてほしいなと切に願います。

 

捕らわれてせっかく切り身になったのに誰にも取られず回り続ける 三浦なつ

切り身で回っているのは回転寿司の魚なのだけど、こんなにも身を削っていながらなんで選ばれないの⁈という詠み手(主人公)の嘆きを投影しているようにも思えます。

 

天からの手紙を舌で受け止めて味わうあそびを思い出したり 藤沢かなた

「天からの手紙」とは雪のことだろうなと真っ先に思い浮かべたのだけど、雨の可能性だってありますね。どんなシーンで誰とそのような遊びをしていたのだろう。

 

カセットテープはもう死語ですか死後ですかうしろ歩きで商店街を 秋月祐一

カセットテープはもう死語なのでしょうかね、やっぱり。「死語です」とキッパリ言われちゃうとしたら・・・ああそうですか、死語ですかとちょっと寂しい気持ちになりますね。友達と声を吹き込んだり、曲をダビングしてもらったり、懐かしい思い出がいろいろあります。

 

手の皺が未来図だとでもいうようにおおきな宇宙は今日もくるくる 中田らんっ

手の皺の未来図を、自分の手で自分らしく書き換えていくのが生きるということなのだと信じています。くるくるしているのは地球でも月でもなくておおきな宇宙なんだね。

 

鯛焼きを購ひし夕焼け遠く亡き妹の待つ雷門へ 嘉村詩穂

亡くなった妹さんのための鯛焼きなのでしょうね。好きだったのかな、鯛焼き。喜んでいるね、きっと。

 

さくらさくら木蓮連翹花海棠わたしも見てと揺れるタンポポ 佐々木優美子

花巡りをすれば尚更に、目当ての花だったり華やかな花にどうしても目を向けてしまうけど、足元にはタンポポも咲いていたりして・・・。そうだよね。タンポポだって、花を咲かせて種を残せたらそれでいいわけではなく、わたしも見てって思うかもしれないよね。

 

ろっぽんのいろえんぴつをにぎらせる 青のぶぶんは空にゆだねて たろりずむ

心が不安定なときに青空を描こうという気にはななかならないから、青のぶぶんは空にゆだねるというのは、青空を描きたくなるような穏やかで清々しい心持ちであってほしいという願いなのかな。もしかしたらだけど。

 

昼間にも星は光っていることを忘れてしまって少女の終わり 紅志野みのり

「大切なことは目には見えない」という星の王子さまのセリフを思い出します。目に見えない大切なことに目を向けられるから大人なのかも。

 

雪解けの道に寝転ぶスマートフォンぼくはそんなにわるいひとかな 不可村天晴

「ぼくはそんなにわるいひとかな」の一言が、なるせなさのすべてを物語っていますね。うわっ、やっちゃった・・・はぁ・・・・って時、ありますよね。雪解けの道に寝転ぶスマートフォンの被害がどの程度だったのか気になります。

 

うすみどり色のひかりの中にいるゆらゆらゆれる庭のしらゆり 赤羽コウ

うすみどりの中にしらゆりの白が映える庭・・・爽やか~の一言。うすみどりが新緑を指しているのだとすれば、このころに咲くといえば白百合といえばテッポウユリかな。

 

遙かなるインド洋からこの街へ水分子らの旅として梅雨 西鎮

梅雨は憂鬱だけど、インド洋からの遙かなる旅を越えてきての雨だと思えば少しは気分も晴れやかになれそう。そんな視点もあったのかと勉強になりました。

 

屋上のアドバルーンと手をつなぎ夏が来るよと知らせにいこう 寺村たこ

アドバルーン、子供のころはあったけど今ではほとんど見かけなくなりました。「夏が来るよと知らせにいこう」が、アドバルーンの役割と絶妙にマッチングさせているところが巧いです。もうそろそろ本格的な夏が来るね。

 

初恋の弔い方を知らなくてだからあの子はきみに似ている 橘春

個人的にすごく好きな短歌。あの子との関係性はわからないけど、多少なりとも初恋の“きみ”を引きずっていたからこそ、“きみ”に似たあの子のことが心に引っかかったんだろうなぁ。別の誰かに恋をしても、初恋の“きみ”を好きだった過去の自分まで弔う必要はないよね、うん。

 

痛くても平気と決めつけられた日のあのかさぶたがまだ治らない 夜凪柊

強く見えたって痛いときもありますよね、人間だもの。かさぶたが治らないのは無理やり剥がしちゃうからなのかも。

 

野茨を抱いたら痛い この人に触れたらもっと痛いだろうな 小林菫子

そうとわかっていても触れたいと思わずにはいられないんだから、実際に触れなくてもすでに「痛い」ね。

 

冷凍庫の中で死ぬくらいならいっそもらってくれ私の初めての女の顔を あかべこかなは

照れ隠しに「冷凍庫の中で死ぬよりはマシだから」という強がりを添えて、他の誰でもないあなたにもらってほしいという本音を託していると感じたのは私だけかな。

 

空気中の幸運を吸う用にフラペチーノのストローはある 柏原十

この短歌に出会ったことはとてもラッキー。だって、フラペチーノをストローで吸うたびに空気中の幸運を吸っているんだと思えるなんて素敵。

 

面倒といわんばかりの発音で「別に」と母に 夜は孤独だ 知己凜

面倒といわんばかりの発音・・・あ~わかるなぁ。反抗期あるあるですね。言ったあとで必ず自己嫌悪に陥るんだけどけどね。

 

さそり座に触りたかった三毛猫が夜を引っ掻いてできた三日月 はしもとしんたろう

さそり座なのでおのずと目に留まったのだけど、三日月を三毛猫が引っ掻いた跡に見立てるのはありそうでなかったかも。こういうスケールが大きい世界観、すごく好きです。

 

雨が降り出してそれぞれに開く傘なんかいうことあるだろ二月 藤田美香

雨なんか降らせてなんかいうことあるだろって、言われちゃってるよ二月。なんて答えるんだろう、二月。

 

濡らさないような抱える生活を庇いきれない折り畳み傘 深水遊脚

折り畳み傘とは、例えば生活保障とかそういうことの暗喩なのでしょう。もっと頼もしい折り畳み傘が欲しいと思うのは国民の願いですよね。

 

海へ行くドレスコードは制服のボタンを二つ外すのが吉 久保工務店

ただしこれは学生に限るというやつだから使えないなぁ。(^^;) 大人のドレスコードはどうすれば吉なのだろう。ボタンを二つ外すというのがいいね、なんか。

 

満月が毎回ちゃんと満月になっちゃうのなんか可哀想だね 横山信幸な

月って決まった周期にちゃんと満月になりますよね、確かに。気まぐれに形を変えているようで、実に規則正しく満ち欠けをしています。それをなんか可哀想・・・とそっと心を痛める感性の豊かさが素敵です。

 

非常口マークの緑のあの人の安否は今も誰も知らない 空川実栄

非常口マークの緑りあの人の安否は気に留めたことなかったなぁ。そういえばどうなんでしょうね。あのピクトグラムの人物の名前は「ピクトさん」と言うんだよ。知ってた?

 

つじつまを合わせて広げられていくあなたの嘘へと当てるアイロン きさら

いくらつじつまが合わせても嘘だとバレている時点でツメが甘いね。アイロンはジュッと成敗するためのものなのか、つかれた嘘で傷つき皺になった心をリセットさせるものなのか・・・。その両方なのだろうな。

 

雲間から、あるいはブリュレの焦げ目から匙で叩けば溢れるもの 小俵鱚太

雲間から射す美しい光だったり、ブリュレの焦げ目を叩いてパリンと割ったときのワクワクだったり・・・。たぶんそれは感じようとしなければ素通りしてしまうものであり、幸せとはそんな何気ないところに転がっていたりするから、それに気づけて幸せを感じられるような自分でいたいなと思います。

 

校則にしか思えない理科室の蝶の標本止めてるピンが 野添まゆ子

蝶をがんじがらめにしているピンが校則としか思えない・・・。それは、校則が足枷になって自由になれず鬱積した生徒の叫びそのもの。校則も必要だとは思うけど、中にはありえないほど時代錯誤のものもありますよね。

 

極論にうなづく人を視界から外して空をゆくものを待つ 戸川菊絵

極論にうなづくのは、場合によっては寄り添って考えることを放棄する行為にもなります。ダメだこりゃ・・・と、空に目を向けたくなる気持ちわかるなぁ。

 

君となら助けをじっと待つよりも筏を作って漕ぎだすだろう 寿々多実果

助けをじっと待つのも、筏を作って漕ぎだすのも生きる選択肢であってどちらが正解とかはありません。ただ、筏を作って漕ぎだす・・・そんな選択ができるのは、“君”となら大海原を共に渡る覚悟があるということなのは確か。