お待たせしました。「半年たったんか」感想まとめ  如月篇です。誤字脱字等ありましたら、訂正させていただきますのでお知らせください。(^_^;)

 

如月

 

昼と夜どちらでもないあわいから使者の顔したオオムラサキは 千仗千紘

オオムラサキって、あの蝶のオオムラサキですよね。あ~ホントだ。言われてみれば、昼と夜どちらでもない色をしていますね。「昼」なら逆に“濃い”になるから、“あわい”となれば夜のほうなのかなと勝手ながら思いました。

 

私という花を育てよ、いやマジで、スコップなんか刺したままだし 深海若

自分の身に置き換えて、いやマジで、そう思うのだけどなかなかうまく育てられずにここまで来てるから、めっちゃ共感します。 (^^;) いやマジで、刺さたままのスコップ手に持って、水も肥料もあげなきゃ・・・。育つもんも育たないよね。

 

書き出しの定まらぬまま六月の光に溶けてゆくラブレター 己利善慮鬼

ラブレターにも書けないからこそ、こっそりと短歌に託してみたりなんかして。歌人・錦見映理子さんの著書にあった「人生には、どうしても散文では書けないことがある。韻文でしか書けないことがこの世にはある」という言葉が浮かびました。

 

トンネルを通過するたび故郷と「娘」の私は遠くなりゆく 諏訪灯

「娘」じゃなくて、日常の顔にだんだん戻っていくんですね。離れていく距離を「トンネルを通過するたび」とする言い回しが巧いなぁ。

 

はちみつをたっぷり垂らすトーストは昨夜の嘘も甘く溶かして 文月

本格的ではなく個人で楽しむ範囲でですが、父が巣箱を作って日本ミツバチの養蜂をしていたことがありました。採れたての蜂蜜をたっぷりトーストにつけて食べていたあの美味しさを思い出します。結局、西洋ミツバチの襲撃に遭ってダメになっちゃったんですけど。美味しいものは心をまあるくしますね。

 

からかいが昭和のようだとっくりを前後ろに着た守衛のおじさん 豊増美晴

とっくりを前後ろにして驚かそうとでもしてるんでしょうね。確かになんかドリフっぽくて昭和 って感じ。(笑) ドリフ好きだったなぁ。 守衛のおじさんのオチャメな人物像が浮かび上がってくるようです。

 

助手席はいつものようでいつもとは違う角度に戻されている 雨虎俊寛

「いつものようで」ということは、明らかにじゃなく微妙にいつもと違う程度なのだと思うんだけど、そこに気が付ける感性が鋭さと観察眼が素敵だなと思いました。

 

旧仮名を清かに使う書道家の筆の運びと語気のやはらか 青山祐己

旧仮名は形も響きも、情緒的でどこか“たおやか”ですよね。その旧仮名を清らかに使う書道家もたぶん同じように情緒的にたおやかな人なんだろうな。

 

Can it be true?と教科書が聞くけどスマホは壊れているの 蟹座

「真実なの?」って訊かれて「スマホは壊れているの」と答える・・・。なんでもかんでもGoogle様に頼り切っているから、昔の人はどうしていたのだろうと思うほど。Google様に答えられないことってあるのかしら・・・なんて。あるか、そりゃ。(^^;)

 

抱くことを「食う」と初めに言った人のこと考えながら桃食う 遅井よし佳

なんで「食う」なのでしょうね。性欲と食欲は似てるから?そういえば、食べ方がガツガツしている人はアッチの方もガツガツするとか比例するらしいですね。そういう意味では、「食う」というのは的を射ているのかも。

 

神様に泣いているのかと問いかけてレモンサワーを雨水で割る 春原シオン

他でもないレモンサワーをチョイスするところにセンスの良さを感じます。やっぱり神様は泣いておられるのでしょうか。ここ最近は特に。

 

「眠いね」と「またね」ときみと話した今は静かに積もる砂時計の粒 えに

名残惜しさと共に別れた直後は、余韻とともにサーッと静寂の時間が訪れます。その瞬間を捉えて「砂時計の粒」としたのは見事だなと思います。誰にでもあることだけど、その一瞬を切り取ることはなかなか難しいです。

 

完璧な人じゃなかった洋服のすそで眼鏡を拭く癖があり 中嶋港人

完璧じゃないのは当たり前だけど、問題はそれを許せるかどうかですね。洋服のすそじゃないけど、適当な布で眼鏡を拭いて傷をつけまくって後悔した経験があるので、見たら「あっ!!Σ(゚Д゚)」ってなるかも。(笑) だからって、それで気持ちがどうこうなることはないけどね。

 

恋だとは限らないけど大切な人なのだろう きみに会いたい 高木一由

恋じゃなくても大切な人はいますからね、異性でも。会いたいのはなぜなのでしょう。

 

手をつなぎデートみたいとはしゃぐ君これはデートじゃなかったんだね 梔子

悪気はないのかもしれないけど、手までつないでいたのなら「デート」だと思っちゃうのは無理ないよね。「あっ、違ってたのね」って、精神的に地味~にくるね。こういうの。予防線を張るために言ったのだとしたらかなりの小悪魔ちゃんだね。

 

おぶさるとそこはわたしの巣となって父の歩幅で揺られて眠る 矢澤愛美

「わたしの巣」というのがいいですよね。ほとんど記憶にないけどそういうときがあったんだろうな、私にも。父親の背におぶさるなんてこと、いい歳になった今では二度とできないことだけど。(^^;)

 

千切りのキャベツに込めたあれこれをあなたは軽く飲み込んでゆく ことり

まっさきに思い浮かべたのは、「おっさんずラブ」のとあるシーン。夫から別れを切り出された蝶子さんが、感情をぶつけながら千切りキャベツをダンダン切ってるあのシーンです。夫である武藏さんは重く受け止めて飲み込んでいたけど、“あなた”はいつもと変わらない様子でさらっと飲み込んでいる・・・。

 

まだ文字になれないままのさざ波を重ねるように書く筆記体 近江瞬

筆記体の文字を「I  LOVE  YOU」だと想像したのは私だけでしょうか。でもそれはまだ形にならないほど淡くて・・・。恋愛なら、そのころが純粋に一番楽しいのかもしれないですね。

 

中指でリズムを刻む癖がある君は偉人の恋に詳しい たかはしりおこ

中指でリズムを刻む人いますね。「偉人の恋に詳しい」とわざわざ強調するあたり、そのくせ自分の恋には無頓着で鈍感なのよねというちょっとした皮肉も込められているのかな。

 

祖父の死に女系家族が集まって喪主の背だけが広かったこと 真島朱火

喪主の背だけが広いということは、女系家族の中で唯一の男性なのかもしれないですね。主としてこれから背負っていかなければならない重圧に対する覚悟をもった背中だからこそ、大きさ余計に広く感じたのかもしれません。まして貴重な男手だから、尚さらでしょうね。

 

旅人の目をして生きてゐることをまぶかにかぶる帽子に隠す 冨樫由美子

観光で訪れるのと、実際にそこに住んで生活をするのとではやっぱり違いますからね。“厳しさ”を知るからこそできれば「旅人」でいたいと思うこともあるし、“厳しさ”があるからこその土地の良さがあったりもします。

 

孤独ってひとりぼっちのことじゃない隣に君が居ないことだよ 村崎

ひとりが孤独なわけじゃない、君がここにいないことが孤独なんだよ。「隣に君が居ない」よりもっと寂しくて孤独なのは、君の心の中にわたしがいないことだよ。

 

ぼつぼつとショパンの打った雨垂れはきっとどこかで打ち続けてる 一音乃遙

「雨音はショパンの調べ」という曲がありましたね。詳しくは知らないのですが、ショパンの調べはどこか雨音を連想させるのでしょうね。私の中でショパンといえば「革命のエチュード」 学生時代にピアノが上手なコがいて、音楽の授業の後によくこの曲を弾いていてたんです。会話らしい会話はほとんどしたことはなかったんだけど、その時はみんなでピアノを囲みながら聴いていました。

 

少しだけ高いヒールを履きました君の吐く息を吸うそのために こーひー

こういういじらしくて健気な女性、好きな人は多いと思います。しかも「君の吐く息を吸うそのために」とかドキュンとくるすごい殺し文句。ヒールとか履き慣れなくてすぐ足が痛くなるから、無理~!!ってなっちゃいます。ドクターxの大門未知子さんみたい颯爽と履きこなせたらカッコイイんだけど。

 

ふと指を舐める仕草がリンクしてポテチなんかで死にたくもなる ひかる

その仕草が誰かの姿と重なって死にたくなるほど、それほどのひどい別れ方でもしたのかな。「ポテチなんかで」死にたくることもあれば、〇〇なんかでと思うことで救われることもあるよね。

 

陽がさして生けるものありぷっくりと水に満ちたる鳩の眼球 壱羽鳥有

陽がさして見えたものが鳩の眼球ということは、公園の木陰にでもいたのかな。ぷっくりと水に満ちたるというのが好きです。なんかいいよね。

 

「海だ」って声で車内が目を覚ます「海だ」「海だ」がひろがってゆく エノモトユミ

家族旅行での車内かな。情景が目に見えるよう。何度見ても、海が見えると気分が高揚して「海だ」って嬉しくなります。

 

話せずに本の貸し借り続いてる二人の距離はカタツムリの恋 千草融

「あっ、いないならこれ渡しといて」直接渡せずに、そんなやりとりがあったりするのかな。どんな本を貸し借りしているのかなと思ったのですが、あっ、もしかして教科書とか?

 

どうしても口ずさみたい歌がありちょっと走って人と離れた ささや野子

こういうのいいっ!! 車に乗りながらよくひとりカラオケするんだけど、誰かに聞かれるのは恥ずかしいから、ある程度周りと距離が離れるまでは・・・と我慢したりします。(笑) 曲を聴きながらどうしても口ずさみたくなる時あります。

 

歩道橋の下で待ち合わせをすればどれかがきみの降りてくる音 御殿山みなみ

歩道橋の下というフレーズで、通学路を連想したんだけど合ってるかな。「お待たせ」と言いながら軽やかに降りてくるそんな足音まで聞こえてきそうです。

 

無人島持って行くならラジオかな 君の声だけ届けるラジオ 花藤もも

ラジオかぁ。私なら何を持って行くだろう。もしひとつだけ持っていけるとしたら、ナイフとかライターとかいろいろ考えた末、それらがワンセットになったものとか売ってそうだからそういうのとか。それともやっぱりテント? あっ、肝心なのもを忘れていた、メガネ。・・・みたいな、現実的なことを考えてしまいました。(^^;)  声を聴きたくなるもなるね。

 

タイミング良く降ってきた雨があり傘を忘れて正解だった からすまぁ

「傘、忘れたの?じゃあ、この傘に入りなよ」・・・なんてな。いいな、いいな。ザ、青春って感じ。( *´艸`) 雨よ、グッジョブ!!

 

その声を頼りに大空仰ぎ見て雲雀を探す春のあぜ道 木下ひるね

散歩していると、どこからともなく鳥の声が聞こえてくるからその声の主を探そうとキョロキョロすることがあります。前に、近くでめっちゃ綺麗に「ホーッホケキョ」と鶯が鳴いていて、絶対に近くにいるはずだと注意深く見渡したら、ほんの一瞬だけ姿を見ることができました。鶯は声はしても滅多に見ることはできなくて、姿を見たのは後にも先にもあの一回だけでした。雲雀はよく見るけど。

 

黒歴史なんていうなよそこにしか咲くことのない花だってある ぬこ

うん、その通り。そこにしか咲かない花だってあるよ。遠回りばかりの人生で、あの時ああしておけば良かった、こうしておけば良かったと思うことは山ほどあるけど、そこにしか咲かない花を見つけることもあったよ。

 

ふすふすと猫の鼻息あたたかくなみだのにおい嗅がれておりぬ 三縞まちか

かつて猫を飼っていたので、ふすふすというのがすごくわかるなぁ。慰めているのね、きっと。ふすふすをやられると、あ~もぉ~かわいいっ!!すき♪♡ってなります。(*^^*)

 

かつかつと軍靴のごとくひびきだす乗り換え駅に逸る足音 菊花堂

「軍靴の足音」あるいは「軍靴の音が聞こえる」というと、軍国主義になって戦争化していくことになぞらえて使われたりしますよね。かつかつという音が、ある種そういった緊迫感をもたらしてひびいているのだと伝わってきます。もともとそうなのか、そういう時間帯なのかわからないけど、それだけ靴音がひびくということは人がほとんどいない構内なんだろうね。

 

司書の手にもう返らない本たちの出航として押す除籍印 未補

本をよく借りるので、除籍印を押された本がどうなるのか気になります。出航した本のたどり着く先が、できれば幸せでありますように。

 

君の口、いつにも増して鮮やかな「赤色ですね」漏れちゃう気持ち 朱月

本人が思っている以上にダダ漏れしている可能性ありですね。(笑) 「赤色ですね」漏れちゃう気持ちというのが、“君”にときめいている感じが伝わっていいなぁ。

 

手のひらに日焼け止めの香残ってる きみの首筋レモンが実る 答ト蜜

レモンが「香る」じゃなくて、レモンが「実る」のほうがよりダイレクトにレモンがきますね。日焼け止めを塗ってあげた、あるいは日焼け止めを塗ったばかりの“きみ”のその手と手を繋いだ・・・「手のひらに日焼け止めの香残ってる」までのシチュエーションをあれこれ考えました。