久々の万葉集特集は、「重陽の節句」ということで菊にちなんでこんな話です。

 

 

万葉集には、4500首もの歌が収録されています。当然のことながら、植物を詠んだものも数多くあるわけですが、なぜだか「菊」はほとんど詠まれていないのです。意外ですよねぇ。

 

万葉集において約150種類もの植物が詠まれている中で、なぜ菊が詠まれていないのか。その理由ははっきりとはわかっていません。ちなみに万葉集で多く詠まれている植物は、萩 (142首) 梅 (119首) 檜扇・ぬまたば (79首) となります。

 

菊が中国から渡来したのは平安時代で、そのころはまだ菊の存在が知られていなかったという説があったり、万葉集に唯一登場している「ももよ草」というのが菊のことなのではないかという説もあったりします。それが↓の短歌です。

 

父母が殿の後のももよ草百代いでませ我が来るまで 生玉部足国
父母の暮らす家の裏に茂るももよ草。どうかあのように長生きしてください。私が帰ってくる日まで

 

百代草(ももよぐさ)がどんな植物かは諸説あるのですが、菊の他にもヨモギやツユクサという説があります。

 

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万葉集と同年代となる日本最古の漢詩集「懐風藻」には菊が詠まれており、そのためそのころにはすでに渡来していたのではないか。・・・いやいや、「懐風藻」に菊が詠まれているのは、中国の詩文に精通した知識人が中国式にならって「菊」を用いただけであって、実物の菊を詠んだものではない・・・等々。

 

「万葉集にはなぜ菊を題材とした歌がないのか」問題には、様々な考え方があります。