アイドルグループNEWSのメンバーであり、小説家としても活躍されている加藤シゲアキさんの小説。

 

週刊誌にゴシップ写真を売っている高橋巧。そんな彼の元にこんな情報が飛び込んできます。どうやらアイドルグループMORSEに所属する伊藤亜希子が、俳優の尾久田雄一と不倫関係にあるらしい・・・。

 

世間を揺るがすような一大スクープは果たして本当なのか・・・。真実は小説の中に、コンフィデンスマンの世界へ・・・って、・・・すみません、ちょっと遊んでみました。(;^ω^)  物語は、追う側の巧と追われる側の亜希子の目線で進んでいきます。

 

“伝える技術”を兼ね備えたアイドル・加藤シゲアキにしか書けない物語

 

亜希子に現れる“ジャック”という名の幻覚は、彼女の存在を全否定し、執拗に追い詰めていきます。同じアイドルとして、少なからず自身の葛藤を亜希子に投影していた部分はあったと思うんです。むしろそれが自然かなと。もちろん、ステージ上からの眩い壮観や高揚といった光の部分も含めて。

 

想像を膨らませて書くことはできるとしても、そこに身を置いて酸いも甘いも経験しつくしている人間とどちらが説得力があるかといえば後者なのは明らか。

 

ただしその強みは、“伝える技術”があってこそ発揮されるもの。“技術”がなければ、それは何も持っていないことと同じ。・・・アイドルが書くものなんて所詮はそんなものでしょう?

 

・・・なんて予想は大きく裏切られます。もちろんいい意味で。

 

 

 全身がセーフライトに包まれる中、巧は印画紙を現像液に浸した。長いピンセットで左右に揺らすと、モノクロの画像はじんわりと浮かび上がっていく。独特の酸の匂いが鼻を突いた。

室温が高いせいで数秒ごとに汗がじんわりと背中を撫でるが、狭い洗面所にエアコンのような空調があるわけでもない。そもそも額から汗が垂れなければこの作業に問題はなかった。

「I know it’s you」を歌うダニー・ハサウェイの声が室内に響く。ソウルは暗室によく合う。音楽に耳を傾けながら行う巧みの作業は、丁寧かつ迅速で美しい。

 

引用元: 【閃光スクランブル 】 巧 モノトーンの日常より

 

 

これは冒頭の部分ですが、この時点でもうすでに「あっ、いいっ!!」と心を掴まされました。まどろっこしさのない的確な描写とリズムが、自分の好みとぴったりマッチしていたから。そして読み進めるうちに、その表現力の豊かさと豊富な語彙に魅了されました。

 

脳内に思い描いている映像をそのまま正確に写しとることも、状況や心理描写など伝えたいことを的確に表現することも簡単なようでとても難しいのですが、どこを切り取ってもそこに最適な語順と語彙が当て嵌められているのですんなりと頭の中に入ってくるのです。かつ、スマートで無駄がないのがすごいなと思います。

 

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アイドルとしての商品価値の分析は実に的確でシビア。パパラッチの巧妙すぎる手口や裏取引はかなり詳細に描かれておりリアル。所属事務所や周囲の思惑と戦略、ファン心理。芸能界を牽引するトップアイドルとはいえ、俯瞰から見下ろすがごとく“表”も“裏”もここまで見えているのかと正直驚きです。

 

・・・ああ、そうか。彼はすべてわかりきったうえでアイドルをやっているし、芸能界に身を投じているのだなというのが一番の感想でした。

 

 

確かな技術を兼ね備えた、アイドルであるNEWS・加藤シゲアキしか書けない物語。それがこの小説です。