「夏姫春秋」という小説で直木賞を受賞された、宮城谷昌光氏の随筆。

 

「夏姫春秋」といえば、なぜか昔からウチの本棚にあったりします。おそらく母が買ってきたものですが、中国の歴史小説だけあってパラパラッとページを捲ったときに漢字が多くてちょっと敬遠していたんです。でも、「随想 春夏秋冬」を読んでいるうちに興味がわいて、手に取ってみることにしました。

 

まだ読み始めたばかりで感想はいずれまた書くつもりですが、絶世の美女と謳われた夏姫の美貌ぷりに早くもどんだけ~!!となっております。(笑) 男を虜にする妖艶さは、どことなく竹取物語のかぐや姫を彷彿とさせる感じ。

 

なぜ、「夏姫春秋」を読んでみる気になったのか・・・。それは「夏姫の怪」という章に、「夏姫春秋」のちょっとした解説や、宮城谷氏が体験した夏姫にまつわる不思議な現象について書かれてあったから。相変わらずこういう単純なヤツです、はい。(^^;)

 

どのような不思議な現象か気になる方は、ぜひ手に取って読んでみてくださいね。

 

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愛知県・蒲郡市出身ということで、同じ三河生まれ。馴染みの光景や地名が出てくる度に自然と心が弾みました。

 

また誕生したばかりの温泉街にある旅館も、規模は小さく、建物は低かった。そのため我が家の二階から三河湾をみわたせた。これは絶景といってよく、夕方、黄金色に輝く海は、時がたつのを忘れさせるほど美しかった。そういう美しさに慣れてくるとも、夕方だけではなく、昼間、浅葱色になる海が好きになった。青の中でも、この色になる海は三河湾だけではないか、とおもったりした。

 

海といえば三河湾、湖といえば浜名湖の私。三河湾の浅葱色は当たり前のように眺めていた光景だけど、あの色は他の海ではなかな見かけない色だったりするのかな。あの色が当たり前すぎて、そんな風に考えたこともなかったけど・・・。

 

三河湾に関する話は他にも、梅雨から夏にかけて三河湾の水面に妖しく光る夜光虫の話もありました。衝撃を与えるとコバルトブルーに光るんですよね。写真などで見るととても綺麗なのですが、まだ見たことはありません。

 

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他にも好奇心旺盛な人柄を滲ませるようなエピソードがいっぱいでてくるのですが、短歌をやっていることもあり「連歌」という章はやはり興味深かったです。これは大学時代、二葉亭四迷研究の第一人者・稲垣達郎氏の講義を受け、非常に感銘を受けたという話。その講義の内容が連歌だったのですが、その奥深さにすっかり驚かされたというのです。

 

雪ながら山本かすむ夕べかな

 

これは「水無瀬三吟百韻」にある宗祇の発句なのですが、「最初に、雪、を置かねばならぬのです」と稲垣氏の解説。どういうことなのかとざっくりいえば、この歌は後鳥羽上皇が崩御されて250年目の年に詠まれたもので、上皇を祀った御影堂に奉納されたもの。

 

上記の発句は、いわゆる後鳥羽上皇の歌の本歌取りであり、単に実景を詠んだものではないのです。

 

発句はいつ、どこで詠まれたかということがわからなければならない。季節は、冬から移ってきたばかりの春である。そこで宗祇は、まず雪を置いた。つぎに霞をだした。この霞は後鳥羽上皇の歌の中にある。

「見渡せば山本霞むみなせ川 夕は秋と何思ひけむ」

山本かすむ、と詠めば、水無瀬であることがわかるしかけになっている。私のおどろきはひろがるばかりであった。

 

いや、「お見事です」としか言いようがないよね。(^^;)

 

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いい感じに力がストンと抜けた状態でつらつらと書かれたのだろうなぁと。そんなことを勝手に想像してしまうような、自然体で衒いのない一冊でした。