萩原慎一郎氏の歌集「滑走路」、いつか読んでみたいと思っていた歌集です。

 

抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ 萩原慎一郎

 

学生時代にいじめに遭い、非正規雇用という現状の中で感情をぶつけるように、祈りを託すようにして詠まれた三十一文字。三十一文字の持つ翼が、いつかこの境遇から救い出してくれると信じて・・・。

 

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歌集を読んでいくと、「のだ」で終わり自分に言い聞かせるような歌が多いことに気づき、そしていかに短歌が精神安定の役割を担っていたのかがわかります。

かならずや通りの多い通りにも渡れるときがやってくるのだ
消しゴムが丸くなるごと苦労してきっと優しくなってゆくのだ
非正規という受け入れがたき現実を受け入れながら生きているのだ

 

ままならない現実に失望しながらも、それでも・・・少なくともこの歌集の中の彼は、人生を諦めてなんかいませんでした。三十一字の翼を信じ、必死で生きようとしていました。

非正規の友よ 負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている
シュレッダーのごみ捨てにゆく シュレッダーのごみは誰かが捨てねばならぬ
コピー用紙補充しながらここままで終わるわけにはいかぬ人生

 

そんな彼が、後に自ら命を絶つことになってしまうのですがそれが本当に残念です。

 

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萩原氏の短歌にこんな一首があります。

今日という日もまた栞 読みさしの人生という書物にすれば 萩原慎一郎

 

何が彼を死に向かわせたのかそれは知る由もありませんが、紡いだ三十一字はきっと見たこともない大空へ連れ出してくれていたに違いありません。なりたかった自分へと導いてくれていたに違いありません。

 

なぜなら、歌集はたくさんのメディアに取り上げられ、大きな反響となってたくさんの人の心を掴んでいるのですから。

 

だから、もっともっとたくさんの三十一字を紡いで欲しかったと心から思います。

 

 

 

路上音楽家の叫び虚しく誰ひとり立ち止まることなく過ぎるのみ 萩原慎一郎

誰ひとり立ち止まることなく、このまま終わらせたくないと自分なりの返歌を詠んでみました。「今日という日もまた栞」という彼のメッセージを三十一字に込めて。

 

 

誰ひとり立ち止まらない路上には付線があった  成功までの   朝倉冴希